2019-01-01から1年間の記事一覧

定点

輝ける街と安らげる街があるとして、けっきょくわたしは後者を選んで満足などできやしないのだ。重くても愛らしい長い髪が必要だった。虚しくても会うことができる夢が必要だった。遠くとも失われない定点が、わたしには必要だった。

グリーンブーケは陽を欲す

鏡みたいな私のことずっと割らないでいてくれよ 気兼ねない吐露も隔壁の無い関係も無いまま増え昇る天井の風船 口も耳も塞がれるような海水の中で頑なに目を合わせないことこそ目を合わせること以上の行為だった あの物語読み返す度わたしのこと描かれてるな…

宿痾の花

胃のあたりに空いた穴の中で咲き誇った宿痾の花がどこにも花粉を飛ばさないように一生両手で覆い隠してなきゃならないんだよ 一生隠して死ぬんだよ 一生

人魚

持ち前の鱗を剥がし売り富を得る気にならないわたしは海の異物のようでした そのうち鱗を売り切って輝きを失った人魚達の中でわたしは特段嫋やかに泳ぎますが そのまたたきを捕食対象と勘違いした魚達に常に追われる日々でした

愛らしくて邪魔

もしこんな体たらくでも生きてられんなら、人種の坩堝に身を投じて、四肢にインクの花を咲かせて、やめらんねえ表現をつづけて、他なんてもう余興、愛らしくて邪魔な髪切り落として簡単に似合う鮮烈なドレス着て太陽の下でクルクル回る、覚束無い足どりが生…

spoon

薔薇型のアトマイザーには一番甘くない香水を入れようと決めた 愛される覚悟が無いから 今はハート型のアトマイザーを探している わたしが一番好きなある甘い香水のための わたしの苦くない箇所をひと掬いしては口へ運ぶ眼前のひとを、顔を顰めずに見つめる…

Stay close

きみは吹雪だ。そしてぼくはその中心にテントを張る。声を返す、瞳で捉える、それすらままならないホワイトアウトの中で、シグナルみたいに光る太陽とずっと目をあわせていたかったの、いまも。

灯火

蝋に浸からないぼくたちに点いた火が煌々と燃え続けられるわけがない。ひとときの灯火を導火線まで運び雑な花火でも打ちあげるべきだったのだろう。スターターピストルの音もゴールテープの座標も与えてくれる者はおらず、形骸化した輪郭で形骸化した憧憬を…

his canvas

夏が終わらない。夕刻の曇天を綺麗だと思うことが増えた。あの淀んだ青は敬愛なる彼らに似ている。入り組む電線の遠く向こうに細い月が添えられていたら完璧だ。完璧に、彼のキャンバスだ。 ふたりを隔てる屈託の澱を映す鏡。それが、彼のキャンバス。

private love

瞼の内側で嗄声を絞り涙ぐむあんな人やそんな人を個人的方程式に沿い抱きしめて、抱擁の予行演習をおこなう。しかし予行演習とは名ばかりで、いつまでも余韻を啜り舐める。こんな調子のまま全てが終わるような気もしてくる。

八月

夢の中にさえ屈託が押し寄せるようになった。四月の夢日記には「延命処置を施すように膨らませ続けた虚像」とあのひとについてのもっともな形容が記されていた。夢は孤独を食べて彩られる。勝手に虚像として生かされて、果てには虚像だからという理由でハン…

偶然

ゴミ箱を蹴り飛ばすつもりで発したなにかが知らん誰かの装備になったり自慰のつもりで晒したなにかが知らん誰かに包帯を巻いたり、外界との共鳴なんて偶然のごった煮に過ぎないので、どんなに切実な手紙でも宛先はあとから見つける。

2019-07-17

未知を求め、糧を探す

失望

数年前の授業プリントを捨てていたら落描きを見つけた、兄の傷と同じ位置にぬいぐるみに絆創膏を貼る妹と妹の涙を背後から指先で掬う兄の絵を描いてた、そんなふうに失望に絆創膏貼り重ねて生きてた。 描きかけた失望をジェッソで塗り消す。失望と切望が天秤…

暴力

媒体の変換さえすれば品性も思慮もないようなありのままの感性や精神の澱を他人にぶつけても暴力にならないと言うのならわたしは生理の鮮血に染まった便器を撮ってポートフォリオに載せる

lymph

わたしはわたしの浸出液に溺れて死にます。

血反吐

血反吐で絵を描いてやるよ、わたしを怖がれよ。

七月

期待とともに七月に足を踏み入れたはずだったが、部屋の電気を消して自分を隠すばかりの日々だった。誰もいない部屋でも耳栓をして、何も出来ずにベッドに沈みこむ。その度、わたしに通う血液なんてその程度か、と失望する。免罪符を得ようにもお金がかかる…

高慢

慰めることができるのはきっと敬意がないからだ。慰めることはその人が可哀想であることを認める行為であり、そんなものは高慢だ。こんなにも高くて深いあなたが可哀想なわけがない。

六月

ひらひらと過ごした。誰の目にも華やかに映るであろう服を着て、実際に華やかな姿だと思われながら、にこやかに、威圧しないように、彼女たちみたいに過ごした。クラスメイトのひとりはわたしと目が合うといつも口角を上げ少し目を見開く。これがわたしへの…