恋とは箱庭で、互いの安寧や切望を持ち寄っては琴線を握るような空間をつくる。すべての関係においてうまく深くまでいきたい、と思っている。うまくいったとしても、死という前提的な破綻があり、ならばどんなにうまくいっても破綻のない関係性を手に入れられはしない。永遠などはなからないから、最前の破綻を迎える努力をする。

mirror

首もとのほくろをわたしたちの銀河と名付けたら、重い髪揺らして重い空気巡らせて重い感情で絡み合おう。突拍子もないあなたはユーモアそのものでとってもチャーミング。わたしを攫った高波のきみ、きみがこの世にいてよかった。わたしが怪獣のようにきみの秩序を壊したら、そのときはずっと許さないでいて、ずっと忘れないでいて。

幸福

しあわせという漠然たる言葉を微塵切りにして現れた形を万華鏡にかざす。言葉の研磨がしあわせになるための一歩となり、覗いた先の模様を倣う、見えてしまえば簡単なこと。わたしの幸せはなに?夢、箱庭、定点、切望?夢は何?夢はあなた。定点は何?定点はあなた。箱庭はあなたと。切望はあなたへ。詰まるところの一辺倒。もうティーンエイジの直情的な切実さがなくとも、それは処世術の類いの振る舞いで、一枚剥がせばきっと簡単にあらわになる、ずっと変わらないわたしの切望。あなたという定点に切望しながら箱庭をともに過ごす夢を見る。それがわたしのしあわせ。だからあなた、あなたをもっと見せて、もっとそこにいて、もっと自由に泳いでいて、高らかに叫んでいて、朗らかに笑っていて、ずっとあなたをやめないでいて。映画のようにあなたを魅せて、わたしが登場しない映像を放映し続けて、埋まらない風穴さえ物語にして、あなたは高波、わたしは風、あなたはあなたのやり方で、わたしはわたしのやり方で、しあわせを攫う。わたしたちに生まれわたしたちが出会った、幸福。

冬の日

あなたを差し置いて幸せになんてなりたくないね、心の中はいつも冬の日。雪の代わりに思い出が降る、付かず離れずのまま終わる日々。

わたしは16歳で外に出た日から変わらない場所から世界に視線を向けていて、病質や観念も変わらず携えていて、けれど変わったことといえば、切望という希望を知ったこと。溜息ばかり吐いていた高校生の頃とはちがう、きらめいた思い出をともに携えたこと。憂鬱で遣る瀬無くて寄る辺ないことは変わらずとも、それがわたしにいつも寄り添い、数歩先で渦巻きながらわたしを似たような切望へ導くのだ。けれど望みが複数あるなんて同時に望みの純度も下がってしまい、それはもう切望とは呼べやしない代物なのではないか。わたしはとても単純で、似たような望みにすぐ縋り付いてしまう。そして似たような破綻を迎え、似たような憂鬱に身を窶す。

その流れに歯向かうのが、あなただった。何も始まらないからこそ、何も終わらない。互いを互いの血肉に刻み、けれど決して目を合わせない、あの物語のように、いつまでも破綻は訪れない、或いは繰り返す破綻や消費を乗り越えて乗り越えて乗り越えて、辿り着く確固たる切望の頂、化学反応のように散らす火花、それはわたしたちが募らせた切望のフラクタル。心の中はいつも冬の日。

吐く息白い、劈く日。

切望も汚れて掌にはなにもない。カップラーメンを雑に啜ってひび割れたからだを携える。拒んできた理由は保身を極めたからで、それはあまりにもつまらない。だからそんなつまらない事やめたいのに、どんなに好きだった相手もこの手で裾を掴めやしなかった。だれも留められなかった。

容易く明け透けにできるからだがあったなら。

自分で汚してきた身体はパンドラの箱の中身そのもので、鍵穴に合う鍵を探しつづけているのに、通過するしかなかったかれらは、どんなに互いに望みあったとしてもわたしの鍵ではなかった、だからこそ通過するしか無かった、あれほど望みあっても、あれほど、あれほど。

オルゴールの少女がバイオリンをひく。わたしはそれを掌に乗せて見つめる。やがて奏でるのをやめ、硬直したそれは、わたしのメモリーに保存されたもう関係することのないかれらのよう。

わたしの掌にはなにもない。

あなたは間違っている、わたしはわかっている、それをいえた試しがないいままで。蓄積した憂いや苛立ちが山となり、火をつけられるのを待っている。あなたのせいで身体に傷がついた、あなたのせいで心を患った、それでもその咎を負うのはわたしだけ。理解に擬態するのをやめろ、先入観から期待してくんな、先天的優越の眼鏡を外してものを言え、いいからわたしを生かせ。

merry

夏は嫌い、悪夢を見るから。悪夢にあなたは決して出てこない、そういう救い。夢のように抱きしめるここは夢、起きたいという望みは容易く叶うのに起きたくないという望みは叶わないね。夢のような夢じゃない日々が確かにあった、溺れるのは泥濘でなく共鳴で、抱くのは絶望でなく切望であった、眩しすぎる程に光る思い出のフラクタルが毎夜わたしを苛むのだ。その日々に戻りたいなんて思わずとも再体験したいと常々思っていて、だからわたしはばかみたいに何度も髪を伸ばす。なりたい自分が過去にある、そんな頭打ちな望み抱きたくはないのに、愛してることはとても気分がいいから。わたしたちが出逢えていなくても、わたしは一方的な発見が叶って幸せだった。好意の相互確信だなんて、起きても何も始められないわたしたちね。燻ったまま見えないところまで来てしまったら、その時はメリーバッドエンドとでも呼んで。