喉元

かの日の恍惚掘り返して親指滑らせ綴る液晶に並ぶ文字達を思えど確かな記憶などどこにもなく延命措置を行う様に膨らます虚像だけが私の安寧私の愛

寂寞に映る激情も琴線を握る共鳴もここにはなく2錠の薬が廻る体内で血流は昇るのをたびたび辞め眩む間に感じる痺れはあなたの出てきた夢の朝のように絶えそうだ

鮮烈な躑躅のマゼンタや狐の死んだ公園やレンガ造りの時計台もラブホテルの横道も本当はあなたと見たものなどなにもなくゆえに低く変わらぬ声を啜る虚空の夜を未だ願う

彩られた夜を経た虚しい朝もホワイトアウトに瞑る瞳も丸みを帯びた孤独の前では存在し得ずこの期に及ぶのは切望への切望

 

繋いだ小指も合わない視線もザラメの水色もひとりで乗るタクシーも喉元を過ぎれば幸せだった。

 

宿痾の花は咲き続けている。