果実と蝿

例えばあなたが宝石のような果実だったとして、それはいつか腐り果てて変貌するとしても、それに惹かれた蝿が幾つも集ろうとも、あなたが宝石のように煌めいているいっときのことをわたしは尊び、そしてそれに惹かれた蝿がわたし自身であることを強く深く自覚して、きっと蝿らしく甘い果汁を舐めるだけ舐めて去るのだろう。

わたしは、わたしとして生きると、かならずあなたを裏切る。

だからそのてのひらでわたしを叩き潰して。

蝿には蝿に相応しい死に様を刻み付けて。

 

とか言ってきっと蝿として生きることすら烏滸がましいわたしは、穢れたわたしを、直視するたびに、ああ死ななきゃいけないんだ、と思いながら、幾度も明度に導かれ、しかし暗闇を曳き連れたこの翅は、あなたの美しい視野を、あなたの明るい未来を、遮断するように覆い被さってわたしの暗色に染めてしまうのだろう。

自分の罪悪から逃げ遂せることはできない。あなたをわたしは傷つける。わたしが、あなたを、傷つける。わたしが。わたしが。そういう日々を送ってきた。実際に何度も裏切ってきた。

それでもまた、言い訳のように都合のいい解釈を頭の隅に置きながら、けれど罪悪の気配を振り払えずに、異常者に振り切ることもできずに、ただただ不誠実な己の心情を虐げて、虐げてもなお、そいつはのさばりつづける。

だってわたしがわたしだから。

異常な形成を成したから。

とっくのとうに。