並行の線

隣で眠る貴方を見ていた。なぜわたしの前でそんなに安らかに眠れるのかわからなくて、その瞑られた瞳の綺麗な並行の線を見ていた。

 

誰もわたしをわたしの望むように抱擁できやしないだなんて、なぜあれほどまで自己の何かを守るように思い続けていたのかわからなくなった。

 

わたしはあなたに差し出された手を掴んで、ともに駆け出した。それはわたしこそ人並みの情欲をもっていたからにほかならず、その薄ぼんやりとした穢らわしさから逃れたくて、拒否を示すことで清潔な自己というまぼろしを自分に見させていただけだった。

まぼろしはこなごなに砕けて、でも砕けたからこそわたしの隣には眠る貴方がいる。

どうしても、幸福、だと思う。

そういう星の元にうまれたわたしたちが、それを自覚しながら生存の際の罪をすこしでも増やさないために、あえておこなわないことを数えて、その数からなる己らの浮浪具合にくるしみながらも、そうとしか生きられないのだと、そういう生き方をわたしたちはみずから選んだという覚悟をもつ。

そのなかで貴方から与えられうる、優しさを、貴方特有の言葉を、幸福のすべてを、全部全部とりこぼすまいと意地を張るほどに食べ尽くして、前提である破綻がどのようなものだとしても、最善の破綻に向かえるように努め、そのときは、何も感じないなんてことが出来る器用なたちではないわたしが、そのときはどうか、どうか、いちばんおおきなありがとうが言えますように。